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    徳次は笊を差出した。

    「ほう。元気だね。ハッパでやられたかね」

    「連れっ子をして行ったです。その子供がまたチブスになって、……」

    「それで、何かね。ドイツ兵は徒歩てくで通るんかね」

    「どういたしまして。お茶位さし上げんと」

    房一はさつき起き出したばかりであつた。歯ブラシをくはへると、井戸端で向ふむきにしやがみこんだまゝ、何をしているのかまだ顔も洗はないやうであつた。その円く前こゞみになつた、背中から、口のまはりに白い歯みがき粉をつけた顔がくるりと向きなほると、

    何となく身体が倦だるかつた。それにちがひはない、今日は珍しく朝早くから川につききりで、おまけに呼びもどされるとすぐ今の騒ぎだつた。埃で黄くなつた頭髪、泥と血の塊り、男の不安げな眼、それからあのいくらか仁義を切るやうな半シャツの甥の身構へだの、それらがもう一度頭の中に蘇よみがへり、一列になつて通つて行つた。

    徳次はすつかり感心したとも、又その反対ともとれる云ひ方だつた。

    練吉は一人で感心し、それでも足りないと見えて、房一に呼びかけた。

    「ホリウチ?」

    と、横合から老父の道平が房一に寄り添つて来た。

    「それをよこしたまへ。二足なんていらんよ」

    出て来たのは紅い手をした看護婦だつた。台所の方へ行つて何やらまごまごし、しばらく立つてから、

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